解説『布箱の製図学』

【第1章】形の表現と基礎図法

カルトナージュ製図Ⅰ〜布箱の製図学【第1章】解説をしておきます。

カルトナージュ製図学習の取り組みについて、学習テキストの内容を解説をしておこうと思います。また各種参考テキストとの関わりについても、何を補講しているかを関連して示しておきます。

(1)図法を用いるための基礎画法を知る

初学者を対象とした製図集としての役割ですから、どの図法からはじめてもよいのですが、前提となる基礎的な作図法を知った上で取り組むのがよいと考えています。第1刷とは異なる新版は、初学者をより意識して基礎図法を構成しました。幾何図法の原理は定正円を元にした作図を基礎にしているので、定正円を分割する図法や作図線を分割して導く図法が必要です。線分を移しとる方法でもコンパスやディバイダを用いた図法になります。まずは、基礎で用いる代表的な基礎画法を習得していただければと思います。

参考テキスト|製図の学習ガイド1・2・3
図形を描くために必須の基礎図法を抜粋したものですが、製図道具選びについても参考になると思います。

(2)曲線を用いる基本図法について

製図1は単曲線や複合曲線を用いる図案が中心ですが、曲線分の基本表現とは何かにとどめています。詳しくは『オーバルの製図学』での解説になります。

(3)基本的な形の図法について

幾何理論を基礎とした図法は、私が考えたものではなく先人の叡智であります。そのため、ここは旧版にも増して線引きをしておかなければと思い、幾何理論に基づく図法については基礎図法に位置付けて構成しています。

【正四角形と正菱形】
正四角形の基本図法は、定直線から描くことを踏まえた図法にしましたが、定正円から求める図法は正菱形としました。立体にすると同じ図形なのですが、正菱形は八ツ花形や心形で複合する図形として活用しているからです。

【白銀比四角形と黄金比四角形】
比率を正確に反映する正図法として収録しているため、「白銀比オクタゴナル」は両矩形に複合させる場合は正図法を用いています。簡略比率の5:7や5:8では正確な比率矩形にはならない場合があり、必ず正図法で作図することを推奨します。

【正七角形と正九角形】
基本的な形としては、正三角形から順に正多角形へと広げられるのですが、図法の精度からいうと正八角形までが現実的です。幾何理論に基づく図法の中にも近似でしか描けない図法があって、正五角形をはじめ正七角形や正九角形は定正円を等分する図法から辺長に誤差が生じる欠点があります。中でも正七角形は幾何図法において誤差が大きく旧版から「近似正七角形」としています。新版では旧式の正九角形の図法を取りやめて、作図誤差を少なくしたオリジナルの図法に変更しました。それだけに正九角形は第2章の基礎応用図法に収録しています。

参考テキスト|黄金比延長十角形の図法
参考テキスト|正十二角形の図法

両図法とも他の図法策定中にできた形なので、未収録図法として参考テキストで公開しています。

【オーバルの図法】
旧版ではオパール(二等円楕円形の図法)の図法のみの収録でしたが、弧成楕円形(白銀比と黄金比)の図法までを収録して、オーバル形の製図が学べるようになっています。
二等円楕円形と弧成楕円形は幾何理論に基づく図法ですが、白銀比と黄金比を基礎にして弧成楕円形を展開する図法は私の着眼ですが、両図法とも不可分なので基本図法の中に位置付けています。

第1章をマスターすることが、カルトナージュ製図の基礎から始める第一歩になればと思います。


【第2章】基礎応用図法

第1章の図法を応用して作図できる形を収録していますので、基礎図法の用い方を理解して取り組んでください。

(1)新版で新しく追加した形

【4:5比四角形】4:5比四角形の図法
スケールの小さい箱のプロポーションに合う形として追加したもので、定正円から求める作図法になっていることがポイントです。オーバルの扁平楕円図法にも用いる図法なので、先のオーバル製図を見越して収録したものです。

【白銀比オクタゴナル】白銀比延長八角形の図法
オクタゴナル(延長八角形)は、二等円楕円形から拡張して作図する方法なので、オパールとの相性はよいのですが、多角形として捉えた場合は長軸のスケールが少し長く感じると思います。そこで、白銀比に収めた多角形としてのプロポーションに整えてみたところ、同時に箱の寸法も決められるように改善しています。

【正九角形】正九角形誤差拡散図法
正九角形は幾何図法にある正円を等分する図法を用いてきましたが、やはり等辺にならない図法の欠点があるので、思い切って誤差の少ない図法にできないかと試行錯誤しながら作ったものです。最終的な図法に辿り着くまでには、二、三の作図法を作成できたのですが、図法においては誤差があるものの、手で作図するとその誤差が合ったり、またその逆もあったりと実に製図というのは面白く難しいものだと思いました。

正九角形誤差拡散図法は、基礎図法を用いてできるだけ手順が少なく、誤差のでにくい図法でズレを修正できる図法が完成したというわけです。ポイントは定正円に内接する正三角形です。三辺ごとに三等分して誤差を拡散していくもので、誤差の修正方法と合わせて説明していますので製図ポイントをお見逃しなく。

(2)旧版から修正を加えた図法

【扇形の図法】
扇形の内半径と外半径の比率を白銀比にすることで120度に広がるバランスのよい形は、単独で使用でき組み合わせても使える形です。旧版ではわざわざ白銀比矩形を描いた後に作図する手順でしたが、新版では内半径から外半径を作図することで白銀比に分割できる作図法に改良しました。

【丸星形】
旧版では丸星の大きさを決めることができなかったのですが、新版では定正円に内接する丸星形の作図法に改めることができました。丸星の形自体も自信作なんですけど、新版で図法を改良することができました。

(3)新たに作成した参考テキスト

【5:6比四角形の図法】
5:6比の四角形は、基礎図法にある線分の長さを等分割する図法が実用ですが、定正円に内接する作図法があると、今後の図法展開に役立つかなと思い策定したのです。今の段階で図法を用いた形の実例はありません。

参考テキスト|定正円に内接する5:6比四角形の図法

【シェル形の図法】
シェル形は単純な定正円の切り欠き図法です。新版にあたり新しい創作的な図法に変更しようと作成したのですが、個性が強すぎて掲載するのをやめました。以前にシェル形にスカラップを用いた応用形を紹介していますが、これと合わせて参考にすることができます。

参考テキスト|シェル形の図法
参考テキスト|Scallop ver3

【菱形の図法】
正三角形を応用した菱形の図法は、短軸を決めて作図できる図法です。そこで横軸を決めて作図できる図法も作ったのですが、新ためて掲載するほどではないので見送ったものがありますので参考にしてみてください。

参考テキスト|横幅を決めた斜方形の図法

【黄金比延長十角形の図法】
旧版に収録した図法ですが、白銀比オクタゴナルの作成中に思いついた図案です。旧版では応用製図として斜角口縁が入った製図にしていたのですが、プレーンな延長十角形を黄金比で描く図法に改良したものです。収録する余地がなかったため、参考テキストとして発表しておきます。

参考テキスト|黄金比延長十角形の図法

第2章は基礎図法を応用していくことで、モチーフ使いが広がっていくことを知っていただければ嬉しく思います。


【第3章】立体をイメージする製図【解説】

第3章は「組み立て方の手法」を元に演習できるモチーフを収録しています。また、第1章・第2章で演習した基底図案を元に作成していく複合製図法にもなっています。
複合製図は、二種類以上の形が複合する図案や、異なる図法を組み合わせて作図しなければならない製図法です。つまり、形を分解していくと何と何で出来上がっているかや、何を元に形にしていくかという実践的な技能・技術の習得が必要だからです。初級者対象の製図集ですが、さらなる製図技術の習得を目的に終章としました。

【参考テキスト】『組み付けと組み上げ』

(1)布箱のレシピ

トライアングル・トレイ|折り組み上げ式の展開図

正三角形をモチーフにしたトレイも実用できる形なので展開製図の基礎題材としました。正三角形の製図から続けて斜辺の取り方に展開できるのが特徴です。三辺の折り組み上げでトレイにする展開図です。

パニエ・ド・フルール|組み付け式の展開図

SALONテキスト扱いだったのですが、モチーフ使いへの要望が強く掲載することにしたものです。元々、プリザしてる知人から作品の入れ物がなくて困っていると聞いて作ったものでした。
組み付け手法を元に形を見開いた展開図は、直接台紙に全てのパーツを見開いて作図する場合に、どのような求め方をするのかがポイントになっています。内基底と外基底を別々にした隠し底を入れて座りの重心を増したので、組み付け式にしましたが、もちろん組み上げ式にも展開できます。

オクタゴン・カップ|折り組み上げ式の展開図

正八角形を基底にした折り組み上げ式のカップです。本来、側面をどれくらい伸ばすかは自由なのですが、この図法は基底の大きさから割り出せるようになった作図法です。しかも、口縁にスカラップ付きです。元々、キャンディー・ポットとして、蓋付きカルトナージュの研究題材だったものの製図法をまとめたものなので、当時の仕立てや蓋付きまでのコンプリートテキストを再編しましたので参考にしてみてください。

【参考テキスト】『CandyPot 1・2・3』
【参考テキスト】『スカラップ製図』

ヘキサゴン・カップ|折り組み付け式の展開図

正六角形の側面を折りで組み上げて、基底を組み付ける複合的な作り方をするもので、縦方向のオクタゴン・カップに対して、横方向に展開する製図の一例です。形や展開製図が主題ではなく、二面図に描いた斜辺を持つ高さの投影方法を習得することが重要なんです。

エトワール・トレイ|折り組み上げ式の展開図(フォルダブル・トレイ)

正五角形の図法を五稜星形に展開し、多面形状を折り組み上げしてトレイにする図法です。多面体は組み付けると形を保つことが難しいのですが、折り組み上げは形を均衡してくれる利点がある手法です。
この製図法の基礎は正五角形の図法・五稜星形の図法なんですが、側面を立ち上げて口縁を水平に保つために、側面の作図法に「三角法」をもちいていることがポイントなんです。

【参考テキスト】『エトワール・トレイ』
【参考テキスト】『プロポーショナル・ペンタゴンの図法』

アバジュール形(曲脚錐台形)|組み付け式の展開図(部分製図)

カルトナージュでアバジュールを作るための基本とする形を図法化したものです。特に側面を曲脚させて形成するためには、どんな製図をしなければならないかという課題に答えるためのものです。
作図で重要なのは、二面図を作成してから部品を取り出す部分製図をする複合製図法になっています。この製図によって曲線の用い方に、焦点と焦線、曲脚線といった図示名称が用いられており、単なる曲線を描くのとは違い、遠くの焦点から大きな円弧を描く作業が必要になってきます。その上で、台紙に直接製図するよりも製図用紙を用いたり、半径の長い円弧を描くためのビームコンパスを用いた作図作業をします。

プラトー(九角形湾曲器皿)|組み付け式の展開図(部分製図)

曲脚錐台形の図法を応用して、円形の器皿に展開する作図法としてまとめたものです。これによって直線的だったカルトナージュのプラトーは、より曲線を帯びたフォルムで作ることができるようになります。
その上で、構造を踏まえた正面図、立面図、部分製図まで広がり、製図法はより総合的に取り組まなくてはならなくなるでしょう。巻末の終わりに、製図からモデル作りまで行えるよう湾曲成形するための「湿式成形法」について補講しました。

最後に、旧版で掲載していた布箱のレシピには製図よりも構造や組み立て方に力点を置いたものがありましたが、それらを入れ替えたため新版には掲載されておりません。別冊としてまとめ直したテキストを副読していただければ幸いです。

【参考テキスト】未収録の製図『別冊:カルトナージュ製図1』

【補説】立体をイメージする製図

カルトナージュ製図Ⅰの目的はカルトナージュの基礎技術に関わる製図ですから、型紙を起こすために用いる図法を学ぶことが基本なんですが、第1章・第2章の基底の図案を捉えられるようになると、実際にカルトナージュを一から作ろうと思えば立体イメージをもって行うものなので、基底から立ち上がる側面や、側面を閉じる天面などを加えた製図まで必要になるはずです。
そこで第3章は、カルトナージュの意図を伝えていく段階において必要になる、立体に展開していく図法をまとめています。

(1)見取り図について

いきなり展開図を作図できるかというと実際そういかないものです。展開図にする前提には「見取り図」という形のスケッチのようなものを描いているはずです。見取り図は、立体の箱を平面に描き表して、立体形状のイメージから展開図に描き起こすために必要なものなので、中・上級者にとっては、立体をイメージする表現の一つに見取り図の描き方も知っておくとよいです。

見取り図の描き方については、アクソメ法やアイソメ法といった描き方を用いるので、これらの描き方を習得すると、自然とスケッチが立体的な描き方になっていくものなんです。

(2)展開製図について

「展開図」は、カルトナージュの箱を上・正面・左・右の四方から見た図に描いたものです。簡単な箱の場合は、基底を中心にした「上面図」と、高さを表す「立面図」の二面図で十分です。
特徴のある形は、立面図を「正面図と側面図」に分けて三面図で作図する場合もあります。さらには、蓋の開閉や引き出しの可動、内装の仕切り等が入れば「断面図(垂直に切断して見た図)」を追加する場合もあります。この展開図は実際の大きさではなく縮尺で作図するもので、自分が製作する際に作成します。

【展開製図を知る重要性】
カルトナージュは優しい作り方でも楽しめる良さがあり、仕立てながら作っていく形があるわけです。例えば、蓋箱と身箱を別々に仕立てる被せ式の箱は、先に仕立てた方を元に、後から寸法を合わせて仕立てることができるわけです。これを展開製図(断面図を追加)からはじめた場合は、設計寸法からみなし寸法に置き換えた紙取りをするため、慣れないうちは後から作った箱の寸法が合わない(きつい・ぶかい)こともあるわけで、作り直さなければならなくなります。
ただ仕立てながら作っていくことにも限界があります。仕立てながら作る方法は形が大きくなっていく傾向があり、正確な寸法基準はいつまでも捉えられなくなり、精密な形をつくることが難しくなるのです。
展開図は作り手の設計意図を表す大切な手段ですから、中・上級者にとって製図技術を高めるモチーフを収録しました。

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